ピッカーさんの1日に同行して感じた「From Seed to Cup」の言葉の重み。
午前9時半、農園に到着。
今日は一日ピッカーさんに達に同行し、一緒に働くことになっている。
続々と町から車の荷台に乗ってやって来たピッカーさん達が到着して来る。
マネージャーさんによるグループの点呼を終えると、皆作業着に着替えてそれぞれの袋を持ってまた荷台へと乗り込んでいく。インドでは作業着も色とりどりで皆カラフル。
私達も早速1番目のグループと一緒にトラックへと乗り込みいざ今日のピッキングエリアへと向かう。悪路で振り落とされそうになりながら、どんどん上へと登って行く。
着くと皆慣れた手付きで腰に袋を器用に巻き付けていく。チェリーのピッキングは大体2ラウンドから4ラウンド行うのだけれど、今回は最終ラウンドだったので、全てのチェリーを摘まなくてはいけない。
その為に米袋のような大きくて丈夫そうな袋を二枚使って、完熟チェリーとまだ青いチェリーを分け入れるための腰袋を作るのだけれど、これがなかなか興味深い。
既製品に頼らずに有るものを使って何とかする、そして何とかしてしまうインドならではの生きる知恵を感じる。
ベテランピッカーさんが私達に巻き方を教えてくれた。
腰ひもは緩まないように息苦しいほどギュッと締める。
マネージャーさんにピッキングの基礎を教わりスタート。
思ったよりもチェリーを摘むのに力が必要で、だからと言って力任せに摘むと実が割れてしまう、、、。
私達を気使って時折ピッカーさんたちが様子を見に来ては見本を見せてくれる。
彼らは一つずつ摘んでいるというよりも、力を入れずにスルスルと一気に滑らせるように摘んでいるように見える。
見ると簡単そうに思うけれど、いざ真似てみてもそうはいかない、、、。
どうしても引っかかって一気に摘めないし、青いチェリーと分ける事が出来ないので結局一粒一粒摘むしか出来ない。
ひとつの木を終えるのに物凄い時間が掛かる。
苦戦しているうちに時間はあっという間に過ぎ、13時でランチタイム。
皆それぞれ手作りのお弁当を持って来ている。
今日同じグループのピッカーさんたちが持って来ていたお弁当の中身を、少し紹介したいと思う。
ここ南インドでは基本お米を主食としていて、朝晩はお米を発酵させて作るドーサ(パンケーキみたいなもの)や、イドゥリ(蒸しパンみないなもの)を好んで食べ、お昼はご飯アイテムが定番だ。この日、皆のお弁当はサンバルとライスの組み合わせが一番多かった。
サンバルはよく煮込んだ野菜と豆に、サンバルパウダーと呼ばれるスパイスミックスとタマリンドを加えて煮込んだもの。北インドのカレーに比べるとサラっとしていてスープのよう。
南インドでは日本のご飯と味噌汁的な存在とも言えるくらい欠かせない定番料理だ。
サンバルは、南インドでも州によって味が違う。
ここチクマガルールのあるカルナタカ州のサンバルは辛さが控えめで食べやすい。
Pallavi&Rajuさん夫婦はタマリンドライス。
タマリンドはどこか日本の梅干しを思い出させるような甘酸っぱい味が特徴のフルーツ。
それに各種スパイスを混ぜて作ったペーストを、炊けたご飯に混ぜ込む。
これが甘酸っぱ辛くて、何とも言えず美味しい、、、。
今でもこのご飯を初めて食べた時の衝撃を覚えている。
数々のスパイスが織り成す複雑なハーモニーに驚き、言葉では言い表せない味わい深さに感動し、スパイス料理の奥深さを思い知った。日本料理とは全く別の世界だ、、、。
インドと言えばやっぱりスパイス。
インドのコーヒー農園では、スパイスを一緒に育てている所が多い。
これがインドコーヒーのテイストに独特のキャラクターを与える一因になっているのだろう、、、そんなことを考えながらおすそ分けしてもらったタマリンドライスを食べる。
そしてアッキロティ。
北インドのロティは全粒粉で作られているけれど、カルナタカ州では炊いたお米を潰したものに米粉を加えて捏ねた生地でロティを作る。
やはり主食はお米。
全粒粉で作ったロティも美味しいけれど、日本人にはお米のロティも口に合う。
食後少しお喋りして休んだら、直ぐに仕事再開。
私達もひたすら摘む、摘む。
空は青く、空気は澄んでいる。空気が清々しい。
農園に響くのは鳥たちの声と、時折お互いを呼び合ったりはしゃぐピッカーさんたちの声。
コロコロと袋の中に転がり入る、摘まれたチェリーの軽快な音が耳に心地良い。
ついつい作業に没頭し過ぎ、本当は沢山の写真を撮ろうと意気込んでいたのに、すっかりタイミングを逃してしまった、、、。
皆切りの良い所で作業を切り上げ、休んだり帰り支度をしたり、摘んだ豆を纏めたり。
ピッカーさんは殆ど女性だったのだけれど、パンパンに詰めた重いチェリーの袋を上手に頭に乗せて軽々と歩く。
迎えの車が来たら収穫したチェリーを積み込み、皆でステーションへと帰る。
その後それぞれハンドソーティングをしてから計量。
きちんと選別したつもりだったけれど、広げてみると沢山青いチェリーが混じっていた。
本日の収穫はふたり併せてたったの27キロ、、、。
広大な敷地に広がる無数のコーヒーの木々。そこにびっしりと実るチェリーたち。
これを全て摘むなんて考えただけで気が遠くなる、、、。
私達が今日摘んだチェリーなんてその中の、本当にほんの一部にしかすぎない。
この日の労働時間は5時間だけだったけれど、ピークシーズンは1日8から9時間働くそうだ。経験豊富なピッカーさんは、その時期ひとりで150キロ以上ものチェリーを収穫するらしい。
後日、別の農園主さんがピッキングのコツを教えてくれた。
ピッキングは指先で行うもの。手全体を使うのではなく、指先を細かく動かしながら、同時にどのチェリーを摘むべきか頭で考える。この2つを連動させることが大切なんだと。
だからピッカーさんは女性が多いのだそうだ。
なるほど、、、。重労働なのに何で女性が多いのか疑問だったのだけど、これで納得。
もしまたいつかお手伝い出来る機会があったなら、次は指を使おう!
たった5時間働いただけなのに、この晩は物凄く疲れて、倒れるように眠りにつきました。
今回話を聞いたピッカーさん
Yashoda Amma(60)
この道20年のベテランピッカー。
この農園で最高齢の60歳。現在ご主人が病気の為、彼女が生計を立てているらしい。
60歳とは思えない程元気いっぱいで力持ち。
この日の収穫もダントツの一番だった。
この仕事の好きなところは、自然の中で働ける事。
この農園だけでなく、色々な農園でピッキングの仕事をしている。
Pallavi(37)&Raju(43)
2人の子持ち。
ご夫婦揃ってこの農園で働いている。
オフシーズンはツーリストガイドとドライバーの仕事をしているそう。
Rajuさんは車でピッカーさん達の送迎も行う。
今回ピッキングを体験して感じた事。
女性が多いけれど、皆重い袋を腰に巻き付けて働いたり運んだり。
結構重労働だと思った。
でも、ピッカーさんたちはとてものびのびと楽しみながら仕事しているように見えた。
ご飯を食べる時、その料理を作った作り手のエネルギーを感じる。だからこそ、同じレシピで作っても同じ味にはならない。必ず作り手の感情は食べる人に伝わると思う。
それと同じようにピッカーさんたちのエネルギーも1杯のコーヒーにきっと影響を与えるに違いない。今日収穫したチェリーが1杯のコーヒーになるまでを想像する。
正直これまでコーヒーを飲む時にそこまで考えた事は無かった。
でも、今回農園を訪れ一緒に働き、そこで行われている信じられない程の行程を実際目にして、そこに費やされる労働力と時間、エネルギーと情熱に圧倒された。
今までただの言葉でしかなかった「From Seed to Cup」の意味。その重さ。それを改めて考えた。
目を閉じてコーヒーを啜ると、ピッカーさんたちの楽しそうなお喋りと鳥たちの声が聞こえるような気がして、自然と微笑む自分に気が付いた。
- Tamaki Umenaka